MT(マハラノビス・タグチ)法は、品質工学に基づくパターン認識手法「MTシステム」の一つである。MTシステムはP.C.マハラノビス博士と田口玄一博士が提案したものであり、両者の頭文字からその名が付けられている。MTシステムの中で最初に具体化された手法がMT法であり、検査対象のデータが正常か異常かを判定したり、原因の診断や予測を行ったりするのに使われる。
MT法では、正常なデータ集団を単位空間と定義し、対象のデータがその単位空間からどのくらい離れているかをもとに判定する。対象のデータの特徴を示す各種の項目を多変量解析し、単位空間からの距離をマハラノビス距離として表す。そのマハラノビス距離が、あらかじめ指定した基準(しきい値)を超えていれば異常と見なす。解析に使った項目のうち、どの項目がマハラノビス距離に大きく影響しているかを分析すれば、マハラノビス距離を小さくする、すなわち正常な値に近づけるためにはどの項目を改善すべきかという診断を行うことも可能だ。
AI(人工知能)などを使ってコンピュータで判断作業を自動化する場合、正常なものだけでなく異常についても定義する必要がある。しかし異常は理由がさまざまで事前に想定し得ないものもあり、柔軟な判断が求められるが、それはコンピュータが苦手とする。MT法はマハラノビス距離という単一の数値であらゆる異常のレベルを評価できるため、人間のように柔軟な判断が可能だ。
MTシステムにはMT法以外に、MT法を発展させたことで生まれた「MTS」や「MTA」などがある。MTSは、単位空間からの距離を、理想的な方向に進むプラス方向のものと、よくない方向に進むマイナス方向のものの2種類に分け、将来の業績予測などに使えるようにしたものだ。
製造業の分野では、MT法は機器の予知保全や劣化の検知などに使われている。機器が置かれた環境や機器自身のデータを監視し、そのデータをMT法で分析することによって、不具合の兆候をいち早く検知したり、機器の余寿命を推定したりすることが行われている。
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